総合型選抜入試、海外大入試…。最新大学受験事情から考える、今こそ「作文」が必要な理由

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海外では6歳から作文教育が本格スタート

「あなたはどんな人?」

アメリカやイギリスの英語圏では年長さんにあたる5、6才の子どもたちが取り組む、最もポピュラーな作文のテーマはこうした自己紹介文です。

誰が好きか、好きな食べ物は何か、どんなところに住んでるのか、お気に入りのおもちゃは何か、何をしている時が一番好きか、そんなことを文章にして自己紹介文をつくっていきます。

だいたいの場合、かわいくデザインされたワークシートがあって、そこに書き込んで進める形式なので小さい子でも楽しくできます。マス目がプリントされた無味乾燥な作文用紙を1文字ずつ埋めていく、という作業は求められません。

対して日本で「作文」と言えば、もっぱら感想文がメイン。遠足に行った後、運動会が終わった後など、何かの経験について「感想」を書く。低学年の場合、ほぼ8割の子が「〜へ行きました。楽しかったです」でしめくくるアレです。あとは定番中の定番が読書感想文ですね。

もちろん、海外でも意見や感想を書くトレーニングもします。けれどもそれは学年が上がってからのことが多く、最初は書くことに慣れていくためのライティングトレーニングをしていくことが一般的。自己紹介にはじまり、絵の説明をする、物語をつくるといった段階を経て、書くことに慣れ親しんでいきます。

ちなみにこの「書く」という行為は、国語(英語圏なら英語)以外の時間でも、頻繁に求められます。たとえば算数では教科書やワークブックには「なぜこの答えになるのか説明しなさい」という問いが頻出します。これ、日本人からすると「え、計算式で解いたらこうなったんだけど…」という思いにかられることもしばしば。アートでもサイエンスでもとにかく「書く」「説明する」機会が多く、子どもたちは書くことに慣れざるを得ません。

自己アピールと内省を求められる大学入試のエッセイ

最も「書く力」が求められるのが大学入学時です。海外の大学では多くの場合、出願時にエッセイの提出を求められますが、中でもアメリカの大学では評価対象として大きな存在感を持っています。(大体の場合、学業成績40%、志望書・エッセイ30%、課外活動30%で評定されると言われています)

エッセイのテーマには例えばこんなものがあります。(出願のパターンは各学校によって違いますが、それはまた別記事で)

あなたにとって重要だった知的体験を簡潔に説明してください。(ハーバード大)

Briefly describe an intellectual experience that was important to you. (200 words)

あなたのルームメイトに知っておいて欲しいことトップ3をあげてください。(ハーバード大)

Top 3 things your roommates might like to know about you. (200 words)

さまざまな機会や経験、挑戦までを含めて、あなたが生まれた世界は、あなたの夢や願望をどのように形作ってきましたか?(MIT大)

How has the world you come from—including your opportunities, experiences, and challenges—shaped your dreams and aspirations?

いずれも抽象度が高いものも多く、書こうと思えば書けるけどこれでいいのかな、と迷ってしまいそう。

アメリカの大学を目指す高校生たちは大学出願を見据えて、何年間もかけてエッセイの準備をします。そのために不可欠なのが「自分」についてのストーリー作り。

エッセイは、いわば大学に向けてのラブレターなので、自分がどんな人間で、どのようなバックグラウンドをもち、何が得意で、どのような努力をしてきたのか。そしてどんなタフな経験をして乗り越えてきたのか、何に問題意識を持っているのか…。そうしたことを大学に向けて文章で伝えるのがエッセイです。

エッセイのためのチューターや塾(のようなもの)を利用する人も多く、それだけアメリカの大学出願には大きなウェイトを占めています。

5、6才の頃から自分についての作文を書いてきた子どもたちにとっては、地続きの課題であり、集大成のひとつとも言えます。

一方で「書く」という訓練を経てきてない日本の教育を受けてきた子にとっては、なかなか困難な課題でもあります。

総合型選抜入試で求められる書く力

「別にアメリカや海外の大学に行くわけじゃないし」と思う方もいるでしょう。

最近では「AIが書いてくれる時代に、人間が書く必要なんてない」という意見も盛り上がっています。

けれども一方で、近年日本の大学入試制度は、刻々と改革が進んでいます。従来の一般入試に加えて、学生の多様な能力を評価するための総合型選抜入試や学校推薦入試が広がりを見せており、中でも総合型選抜入試は全入試に占める割合も増加傾向にあります。早稲田、慶應といった私大をはじめ、国公立でも東京大学や北海道大学、東北大学などが総合型選抜入試を取り入れています。

学力試験の枠を超えた多面的な評価を行う入試で、志願者の個性や才能、ポテンシャルを重視しています。例えば、課題研究やポートフォリオ、面接や小論文などを通じて学生を評価するというもので、海外大学の入試制度にかなり近い内容となっています。

ここで重要なのが「書く力」です。出願する際に求められる志望理由や活動報告書といった書類は、海外大のものとかなり似通っており、「自分がこれまでどういったことに興味を持ち、実際にアクションしてきたのか」「大学に入った際、どのように活躍できるか」と言ったことを伝えることが求められています。

さらに、入学後の専攻に合わせて課題を与えられてエッセイを書く、という大学も増えています。たとえば、

明治大学農学部生命科学科 2024年

生命科学科では、生命現象のメカニズムを分子レベルから理解することを基盤として、これら を人類が直面している健康、環境や食料問題などの解決に活用することを目指しています。 そこで、高等学校の「理科」の授業で学んだ内容に関連し、特に興味や疑問をもった事柄に 関する書籍を1つ読み、1,200 字以内でレポートにまとめなさい。

こうした入試の傾向は、学生たちの能力や適性をより幅広く評価し、大学内に多様性をもたらしたいという意図があると考えられます。今後さらに自らの言葉で考えやビジョンを伝えることのできる学生が今後も求められる傾向はつづくでしょう。

もちろん、人生のゴールは大学に入ることではありません。ただ、自分の歩んできた道を俯瞰し、内省化し、次のステップに繋げることのできる先を見る力とそれを文章化できる表現力は、「問いを立てる力」が必要とされる時代に間違いなく必要なものです。

書くことには、そうした力を育む力があり、だからこそ海外そして日本でもこのスキルが求められるようになっているのです。

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